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HASUI Motohiko

Past2021.12.03—12.19

蓮井元彦〈写真はこころ〉
HASUI Motohiko〈Photographs of the Heart〉

2021年12月3日[金]—12月19日[日]


蓮井元彦(はすい・もとひこ)は1983年、山形県生まれ。東京都出身。2003年渡英。Central Saint Martins College of Art and Designを経てLondon College of Communicationで写真を専攻後、2007年より東京を拠点に国内外の雑誌や広告で活動。主な写真集に「10FACES」 「10FACES 02」「Personal Matters」「Personal Matters Vol.2」「Yume wo Miru」がある。

写真はこころ

「お店の雰囲気が良いので写真を撮って良いですか?」と聞くと、「建築やっている方?」「写真です。」「いいわよ。」僕は何枚かの写真を撮った。

福岡に仕事で行った時の事だ。駅から今風の繁華街を抜け、裏路地を散策していると曲がり角を曲がったところにいかにも昭和喫茶という感じの喫茶店があった。テーブル席が十五席くらいとカウンターが十席くらいの店で、サラリーマン風の客が五名ほどランチを食べている様子だった。僕は珈琲を注文した。

喫茶店のおばちゃんは数十年、女手ひとつで店を切り盛りしてきたそうだ。 「取材とかも来るのよ。」と言いながら何冊かの雑誌を見せてくれた。「写真を撮られるのはあまり好きじゃない。だから大体は断っちゃうのだけどね。」と言った。

古びた店内はどこか懐かしく、作りの良いテーブルや椅子が使い込まれていた。

おばちゃんは店のことや街のこと、夫のことなどを話してくれた。僕は一通り店内の装飾や雰囲気を撮り終えると「今度はおばちゃんの写真を撮らせてください。」と頼んだ。照れ臭そうに「私はいいわよ。」と言って断ったが、何度かお願いをすると最終的にはお許しをいただけた。カウンターの前に立ってもらい撮り終えると、どことなく嬉しそうにしていた。

帰り際に「写真はカメラじゃない、こころよ。純粋なこころを忘れないで生きていってね。」と言った。おばちゃんの目は強くて優しかった。 いつまでも元気でいてほしいと思った。

店を出て川を渡ると小さな公園があった。僕は立ちどまって、さっきの喫茶店のことを考えた。

東京に帰ってもおばちゃんの言葉は僕の中に漂い続けた。 そして、それはずっと消えてしまうことはないだろう。

蓮井元彦

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